そばに眠る、届かない花

11. さぁ、この想いを告げよう

※左之視点


暗い住宅街を走りながら、俺はスマフォを取り出しダメもとで千鶴の番号に発信する。コールが数回続いて留守電につながるかと思った時、コール音が消えて電話がつながる。
「もしもし、千鶴か!今どこに……。」
「……左之兄。」
「薫?」
「千鶴、カバン落としていったみたい。携帯も財布も定期も全部ここにある。」
「そうか、駄目か。わかった、でもそれなら遠くには行けないってことだな。」
確かにあの時どさりと音がして千鶴が帰ってきたことに気付いたんだった。あれはカバンだったのか。ただそれなら行動範囲は絞られる。千と連絡を取ってそちらに移動されたりしたら困ると思っていたが、その状態なら無理だろう。あとは千鶴の行きそうなところを順に回っていくだけだ。
薫に絶対見つけて帰るからと伝えて電話を終える。薫の声にはまだ不安の色が深く残っていたが『お願い。』とだけ呟きが聞こえて電話が切れた。

その後は、闇雲にどんどん暗く静かになっていく住宅地を駆け回る。だが、それらしい人影を見つけることが出来なかった。イライラと顔にかかる前髪をかきあげて、空を見上げる。秋とはいえ夜になればどんどんと冷えてくる。千鶴は凍えてないだろうか。
千鶴の行きそうなところはどこだろう。
きっと今頃泣いているに違いないのに。早く見つけて千鶴にこの気持ちを、ずっと心に秘めていた想いを伝えなくちゃいけないんだ。
遠くに行けない千鶴がいくら自分の住む街とはいえ、暗くなった街を歩き回っているとは思えない。きっとどこかで休んでいるはずだ。

このまま闇雲に走っても仕方ない。
ちょっと冷静になろうと、ぴたりと足を止め大きく深呼吸をする。
あの二人が小さなころからずっと過ごしてきた住宅地だ。思い出を辿れば、きっと千鶴が身を隠して泣いている場所がわかるはず。

二人を連れて歩いた道、遊んだ公園、自転車の練習をした広場。思い出しては消えていく思い出。いろいろ思い出してみるが、なかなか思いつかない。
今千鶴を見つけて伝えなければ、千鶴はきっと俺の気持ちを信じてくれることがなくなってしまうように思えて、焦る気持ちを抑えつけながら考える。

その時、ふっと蘇った思い出。

二人を連れて、よく通った神社の境内にある公園。小さな砂場と点々と並べられた遊具。さして大きくもない公園だったが、小さな二人を遊ばせるにはちょうどいい公園だった。住宅街の隅にある少し高台になった場所にあるその神社は、俺の学校のやつらは来ないような小さな公園で、幼馴染と遊んでることをからかわれるような年頃だった俺にはちょうどいい場所だったからよく通ったんだった。
ちいさなお社と社務所、林のある境内の中の公園で、遊具に飽きた二人とよくおにごっこやらかくれんぼなんかをしたもんだ。その時かくれんぼで千鶴がよく隠れたのがお社の軒下。いつもそこに隠れるからすぐにわかってしまったが、少しの間見つけれないふりをしては、そこを覗き込むと見つけられたくせに、嬉しそうに笑って俺に抱きついてきた千鶴。それがつい最近のように思い出される。見つけると悔しそうに顔をゆがめる薫とは正反対。それでも二人とも俺になついていて、三人で過ごすことが当たり前で何も悩むことなんてなかったあの頃。
そういえば、見つからないようにとドキドキとしている千鶴の顔が、見つけたという俺の声でぱぁっと笑顔になるのが好きだった。その笑顔を守るのが俺だけの役目だと信じてた。
(ああ、俺はそんな頃からずっと千鶴しか見てなかったんだな。)
そんな幼いときからの想いが千鶴と会わないくらいで消えてしまうはずがなかったんだ。それなのに俺は……。二度も同じように逃げてしまった。千鶴への想い。そして、同じ様に俺を想ってくれていたという千鶴から逃げて、傷つけた。千鶴の傍を離れるのが怖くて……千鶴が離れていくのが怖くて、兄のような今でいいと勝手に決めつけていたくせにそこからすら逃げようとしていた。
どれだけ臆病だったんだろう。
千鶴が好きだと、傍にいてほしいと伝えよう。薫の言ったことが真実じゃなかったとしても、千鶴が俺のただ一人の大切な人なのだと言葉を尽くして伝えよう。届かなくても構わない。この想いを伝えなければ、きっと二人ともここから先に進めない。
これが本当に最後のチャンスだ。

俺の思い上がりかもしれないけれど、千鶴はあの場所で待っている気がした。
あの頃のように、『見つけた』と俺の声が聞こえるのをあの場所で待っている。

もう一度大きく深呼吸をして夜の住宅街を走り始めた。



end.


お題「恋人になるまでの10ステップ」より
10:さぁ、この想いを告げよう

やっとここまで来ました。あともうちょっと。

2013/08/01


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