shining star

今日は久しぶりのオフ。といっても午後からだが。午前のちょっとした打ち合わせも無事時間通りに終わった。事務仕事も溜まっていない。
春歌が無事事務所所属の作曲家として籍を置くことが決まり、そのまま俺のアシスタント兼作曲家として自分の傍に置くことを決めてから少しして事務所の改修工事も無事終了した。俺の事務室は寮から事務所のほうに戻った。空き部屋だったその部屋はそのまま、春歌の部屋とした。所属になれば寮を使うことに問題はない。あとはちょっと職権乱用して、俺の事務室の隣室に作曲の出来るスペースを置いて、行き来の出来るようにドアで繋いだ。それに仮眠スペース、簡単なキッチンを置いてちょっとした部屋のようにしてしまった。
いくら寮で隣室だとしてもなかなか二人で過ごす時間が取れない。結局二人で過ごす時間といえば、二人で事務仕事をしている時のちょっとした休憩時間くらいだ。その時間を少しでも有意義に過ごす為のちょっとした工夫。社長に宣言をしたとはいえ、まだまだ公表するわけにはいかない秘密の恋人と過ごす時間を少しでも取りたいから、なんて理由を林檎あたりに知られたら盛大にからかわれるに違いない。
でも今日は寮の自室でゆっくりを過ごせそうだ。

「り、龍也さん?」
「なんだ?……お、サンキュー。」
俺のアシスタントとして、俺のスケジュールを把握しているこいつ……春歌は俺に合わせて、休みがとれるように自分の仕事も調整したらしい。俺が予定を聞いた時には、ちょっと恥ずかしそうに「空いている」と即答だった。こいつ自身は午前中からオフだったらしい。昼食を準備して待っていてくれて、今も食休みをする俺にコーヒーを入れて戻ってきた所だ。
俺にコーヒーを差し出しながら、何か言いたげにそわそわとしながら傍に寄ってくる。
先を促す様に、視線を送ればほっとしたように口を開いた。
「月宮先生にピアスつけないかって言われてるんです。とっても可愛いピアスがたくさんあるからって…」
随分こいつのことを気に入っているらしい林檎にたまに付き人として貸すことがある。どうもこいつと話すとストレスが癒されると言っている。それにファッションなどに疎いことを気にしているこいつも林檎からいろいろ手ほどきを受けているらしく、楽しげにしている。音楽のことばかり考えて年頃の娘が興味を持つことに一切見向きもしてこなかったらしい。それが最近になって少しそういうことに目を向けるようになってきたようだ。
…まあ、それが俺の為だっていうんだから、嬉しくないはずがない。
だが、こいつの周りにはこいつを狙う男ばかりだからな。可愛くなっていく無防備なこいつが心配になっちまう。
「ピアス?」
「はい…つけてもいいですか?」
恐る恐る俺を伺うように聞いてくる。考えるように黙り込んだ俺を、俺が横になったソファの足元でラグにちょこりと座って俺を上目遣いで伺ってくる。別に俺を気にすることもないと思うのだが、律儀なのは性格なのだろうか?林檎からきらきらとした可愛らしいピアスを既に見せられているのだろう、遠慮がちにしてはいるが期待で瞳の奥はきらきら輝いている。そんな様子に自分でも気付かないうちに唇に笑みが零れる。春歌の頭に手を伸ばしてくしゃりと掻き混ぜる様に髪を撫でる。
「まあ、いいんじゃねえか?別に服装にとやかく言う様な業界でもないしな。」
「本当ですか!ありがとうございます!!」
弾けるように嬉しげに微笑む春歌。そのまま髪を撫でていると春歌がくすぐったいような、心地よいような様子でふんわりと微笑んで肩をすくめる。こうして触れると、随分長い事、こいつに触れていなかったんだと実感する。ああ、こんなじゃ足りねぇなぁ。
髪を撫でる手のひらをするりと下ろしてそっと頬を撫で、耳に触れる。さわさわとまるで愛撫でもするようにそっと触れていけば、たちまち春歌の頬や耳が赤く染まっていく。少しずつ少しずつ、俺に触れられる事に慣らされていったこいつの身体は、俺好みに敏感で。薄く開かれた唇から、切なげな吐息が漏れる。
片手に持ったカップをテーブルに置くと、カタリとカップが音を立てる。その音で春歌がびくりと身体を揺らした。
「あ、……りゅうや、さん?」
「うん?」
「あああ、あ、あの、まだ、あかるい、ですっ。」
恥ずかしさやら驚きやらで硬直した春歌を、無抵抗なのをいいことにそのまま引き寄せて、首筋に顔をうずめる。
「ああ、別にいいだろ?……お前が足らねぇ。」
「ええっ、あの、せめて、あの、寝室で……!!」
まるで力の入らない春歌の抵抗をかるくいなして、そのまま抱き上げる。すこし乱暴に口付けてしまえば、抵抗は徐々に弱くなっていく。

まだ、指輪を渡す事は出来ねえから。俺のもんだっていう証をこの耳に刻むってのいいかもしれねぇな。

今はなんの飾りもない耳に口を寄せて、キスを降らせるとそっとその耳元で囁く。
「ファーストピアスはしょうがねぇけど、セカンドピアスは俺が選んでやるよ。」



end.

龍也と春歌、ED後です。
なんで、ピアス?……自分が開けたからです。
この先を書いてみたい気もしますが、サイトではここまでです。

2011/12/22


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