いつかふたりきりで

(折角、平助君や沖田先輩が誘ってくださったのだから、楽しまなくっちゃ)
大みそかの夜、千鶴は思わず出てしまう何度目かの溜息を吐いた。去年は、平助と待ち合わせをしただけなのに学園の皆と出会って、楽しい大みそかだった。来年もこんな風に過ごしたいと思ったのは事実。いまでもそう思うのだけれども。ひとつ実を結んだものがその状況を少し変えてしまった。
(原田先生・・・左之助さんと一緒に行きたかったな。)
今年になって、通う高校の教師である原田と紆余曲折の結果、恋人同士となったのだ。しかし、そこは生徒と教師。おおっぴらにデートをすることもままならない。今日も事情を話せないでいるうちに、平助や沖田に誘われて断れないままこうして除夜の鐘を突くためにお寺に向かっていた。原田と一緒に行けないのなら家に居ようと思っていたのにと、溜息ばかりになっていた。いくら事情を話せないとはいえ、恋人がいるのに他の人とこんな風に過ごしていいわけがない。
原田には連絡をして経緯を話してあった。
「友達と過ごすことも大事なんだから、楽しんでこい。」
そういう電話の向こうの原田は、やっぱり大人の男の人で。千鶴には高校生らしい友達付き会いも大切なのだと諭してくる。こういうところはやはり教師だ。男子ばかりの学園で内気な上に唯一の女子である為になかなか馴染む事の出来ない千鶴をとても気にかけてくれているのは知っている。それでも恋人として一緒に過ごせないことに何か言ってほしかったと思うのは千鶴の贅沢なのだろうか。

平助や沖田にせがまれて今年も着物を着ている。
折角だからこの姿を平助に携帯で撮ってもらって、原田に送ろうと思った。めったに着れない着物姿を原田にも見てほしいから。恥ずかしいけれど、出来る限りの笑顔を撮ってもらおう。
(ちゃんと友達と楽しんでいるところを見て安心してもらわないと。)


***


待合わせ場所に着くと、そこにはすでに平助と沖田が待っていた。
「おう!千鶴!来たなー。大丈夫だったか。やっぱり一緒に来たほうがよかったんじゃ・・・。」
「やっぱり僕が迎えに行けばよかったな。・・・千鶴ちゃん遠慮しなくていいんだよ。次からは僕が迎えに行くからね。平助じゃあ、千鶴ちゃんを守れないだろうし。」
「・・・ちょ、総司、それどういう意味だよ!」
「えー、そんなちっちゃい平助じゃあ、ねぇ。」
いつものように、二人の争いが始まってしまった。
「相変わらず仲が良いんですね。先輩たち。」
千鶴がくすくすと笑いながら二人に近づく。その言葉に二人とも異論があるようで、ムッとした顔をする。しかし、千鶴の着物姿をみるとそんなことも忘れたように千鶴を手放しでほめてくれる。
「よ、よくに、にあってるぞ。千鶴。」
「噛み過ぎだよ、平助。千鶴ちゃんはほんと何着ても似合うけど、着物が一番似合うね。」
「・・・ありがとうございます。」
顔を赤くして横を向いたままほめてくれる平助。よどみなく千鶴の手を取ってほめる沖田。正反対な二人の態度は相変わらずで。原田にみて欲しかったという気持ちがまだ残る千鶴は申し訳なく思いながら礼を言う。
ここは寺の門前。敷地の中は例年通り人が多い。千鶴は携帯を巾着袋から取り出して、カメラモードにしながら平助にお願いをする。これから寺の敷地に入ってしまえば、どうしても人が多くて写真を撮ることが難しくなるだろう。それに人ごみで着崩れた姿を撮るよりは今のほうがいいだろう。
「平助君、あのね。携帯で私を撮ってほしいの。頼めるかな?」
「うん?かまわねーよ。珍しいな、千鶴が自分を撮ってなんて。」
ここまで歩いてきて乱れた裾や袖を整えながら、千鶴は平助の構えてくれた携帯に向かって微笑んだ。
「うん。折角お着物を来たから、・・・・見て欲しいなって。」
「・・・・っ、おまえ、可愛過ぎっ・・・。」
原田を想って、はにかんで微笑む千鶴には今までにない艶があって。なんとかシャッターを押して写真を撮った平助は、この写真を千鶴は誰に見せるのだろうかと考えて痛む胸と今の千鶴を見た衝撃を無理矢理押し込めた。平助の後ろから、その様子を見ていた沖田の顔も一瞬曇る。だが、次の瞬間、後ろに感じた良く知る人物の気配に気付いて、振り向かないまま、苛立ったような声を上げる。
「・・・左之さん、隠れてないで出てきたらどうです?盗み見なんて大人げないですよ。」
平助は気付いてないようだが、先程の千鶴の笑顔をいつも向けられている人物に沖田は気付いていた。きっと千鶴を誘えば、偶然を装ってその人物も姿を現すに違いないと思っていた。だからこそ、イラつくのだ。土方以外にはめったに向けない苛立ちを思わずぶつけてしまう。
「わりぃな。楽しそうだったから、つい、な。」
その沖田のイラつきにも動じず、門の陰から姿を現したのは原田だった。沖田に向けられた殺気の様な苛立ちをさらりと受け流す原田に沖田も溜息を一つ吐いて苛立ちを収めた。千鶴が笑顔でいてくれるならそれでいいのだと自分に言い聞かせるように心で呟きながら。
「おう!やっぱり今年も来ていたな。暇だったし、引率でもしてやろうかと思ってな。」
平助と千鶴にも声をかける。すると、千鶴は満面の笑みを浮かべて原田に駆け寄った。
「原田先生。今年もいらしてたんですか!」
「おう、また去年みたいになると大変だろうと思ってな。新八もまた甘酒もらって泣いてるぜ。」
「新八っつぁん、またかよ・・・。」
去年の永倉を思い出し、皆が笑う。


除夜の鐘を突くための整理券をもらいに、寺の中に入る。平助と沖田はいつものように言いあいをしながら先を進んでいく。きっと永倉をからかってから行くつもりなのだろう。
そんな二人を追いながら千鶴は原田と一緒に歩いていた。まさか、こんな風に願いがかなうなんて思いもしなかった、と千鶴は嬉しそうに微笑みながら原田の隣を歩く。
「まさか、いらっしゃるなんて思いもしませんでした。原田先生。」
「ああ、やっぱり千鶴の着物姿をこの目で見ておかねえとな。」
「・・・お着物着るってどうしてわかったんですか?」
電話では、お寺に来ることしか言っていない。どうしてわかったんだろう、と千鶴は不思議に思う。すると原田は苦笑して、千鶴の頭をそっと撫でる。
「まあ、総司あたりが我儘いって着せるだろうなと予想してた。・・・・あいつらだけに見せるなんて、なぁ。」
・・・嫉妬したんだよ、と。ぼそりと照れたように小さく告げる原田に千鶴は眼を丸くする。
(左之助さんが・・・やきもち、を妬いてくれたの?)
「そうそう、さっきの写真はちゃんとくれるんだよな?」
原田は照れた事を誤魔化すように、千鶴を覗き込むようにして聞いてくる。
「えっと・・・、あ!さっきのですか・・?」
「俺に見せるために撮ってもらったんだろう?」
小さく恋人として過ごす時のように甘い声音に千鶴は顔を真っ赤にしてしまう。まさか、見られているとは思わなかった。
「あ、あれは・・・・お見せできないかと思っていたからで。お見せできたから・・・。」
「・・・俺に妬かせた罰だぜ?ちゃんと寄越せよ?」
千鶴の反論を押しのけて、原田が強く念を押す。強い甘い視線に千鶴は逆らえずに頷いた。
「・・・卒業したら、俺の為だけに着てくれな?」
「はい。」
千鶴はしっかりと頷く。手を繋いだりは出来ないけれど、いまはこうして一緒に歩けるだけでうれしい。いつかだれの目も気にせず歩ける時までに、原田に釣り合うような女性になっていたい。千鶴は心に誓った。きっと原田は今のままでいいと言ってくれるだろうけれど、その言葉に甘えてしまいたくはなかった。


「おーい、千鶴、左之さーん。早く来いよー!」
「なに、のんびりしてるの?早くおいで、千鶴ちゃん。」
先に進んでいた平助と沖田がこちらに手を振っている。その声に千鶴は手を振り返して返事をする。
「はーい、今行きます!・・・左之助さん?」
2・3歩先に進み、周りに人の少ないことを確認して、小声で千鶴が振り返りながら原田に声をかける。
「なんだ?」
「今日も・・・左之助さんに見てもらいたいなって思いながら着たんですよ?」
「・・・っ、千鶴、おまえ。」
「原田先生も早く行きましょう!」
内緒話をするように告げられた小さな恋人の言葉に絶句した原田に、千鶴はふんわりと微笑んで先に歩きだす。子供だと思っていると不意に大人びた表情を見せる年齢の恋人に原田は驚かされてばかりだ。


照れた顔を隠すように口元に手を当てて、原田は千鶴の後を追い、歩き出す。


(卒業までもつんかな?俺の理性・・・。あんまり、急に大人になってくれるなよ・・・。)



end.

2010年最後の更新です
なんとかギリギリ間に合ったかな?
きっとだれもが考えただろう、オトモバ年末SS(SSL)からの妄想です
次の年末という設定
SSLを追い切れてないので捏造設定もある気がします
今回調べるまで平助君は1年生だと思ってたんだけど、違うのね?
あれ?どうなのかな?どなたか教えてください・・・

バタバタと書いたので、いつにもまして誤字脱字が多そうです
すみません

付き合うまでの紆余曲折の妄想もいつか書きたい!

2010/12/31


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