いつだって余裕でなんでも慣れているような原田だから、原田の初めてを千鶴が貰えることはないと思っていた。
そう思ったら少しだけ緊張がほぐれたような気がする。
「私で、いいのでしょうか?」
それでも、やっと出た言葉はそんな言葉で。
そんな千鶴の言葉に原田がすこし怒ったようだ。
「どれだけ待ったと思ってんだ。お前が……千鶴が、いいんだ。じいさんになっても千鶴と手を繋いで歩くのが俺の夢なんだからな。あと千鶴によく似た子供や孫に囲まれて大往生って決めてんだぞ。」
「……私は左之助さんに似た子供がいいんですけど。」
「いや、こればっかりは譲れね……って、それ、OKって取るぞ?」
小さく漏らした言葉に原田の表情がぱっと明るくなる。そんな原田にふふっと小さく笑みを漏らす。
「……不束かものですが、よろしくお願いします。」
「ああ、ずっと一緒にいような。」
そういって笑った原田の顔をきっとずっと忘れない、そう思った。
事情を話してあったらしいレストランの人たちが口々におめでとうございますと言いながら給仕していくので、なんだか気恥ずかしくてせっかくのお料理もあまり記憶に残らなかった。
なんとか食事を終えて、ラウンジに場所を移して。
食事の時にすこし頂いたワインでもうほろ酔いの千鶴はカラーの花束を抱えて、ノンアルコールのカクテルを前にほうっと息を吐いた。
「ああ、そうだ。これも、な。」
給料の三ヶ月分とはいかないけどなと笑いながら千鶴の前に差し出されたのはビロードの箱。
「……開けてもいいですか?」
「ああ。」
触ったら消えてしまいそうで、恐る恐るそっと触れる。すこし硬い蓋を開ければ。
柔らかい蕩けるようなシルバー……いいえ、プラチナに赤い石。シンプルな小ぶりの石を埋め込んだだけのデザインだが、ラウンジの柔らかい照明にキラキラと輝いている。
息を呑んで固まった千鶴に原田がくくっと笑うと指輪を持ち上げる。そして千鶴の小さな左手を取るとその薬指にするりとはめて。
「ああ、やっぱりよく似合う。」
その小さく白い手のひらにそっと触れながら、原田が小さく漏らした言葉に千鶴がぱっと顔を上げた。
「……似合い、ますか?」
「ああ、よく似合うよ。」
その言葉に千鶴がポロポロと涙を零す。
淡い色の花が嫌だと意地を張って原田を困らせたのはいつだっただろうか。そんな千鶴に原田は怒りもせず、ずっと赤い花束をくれた。
でも、花以外の赤い物を貰うのも赤い物が似合うと言われたのは、初めて。
「どうして、この色を?」
「最初はやっぱりダイヤとか誕生石がいいかと思ったんだけどな。これを見付けたら……なんかこれがいいって思ったんだ。これが俺が見た中で一番お前に似合うよ。」
そう言われてしまったら千鶴の涙がもう止まらなくて。ボロボロとなく千鶴に原田は驚いていたが、そっと肩に手を回して抱き寄せる。
「千鶴、愛してる。」
「……私も……」
愛しています、心から。
end.
ワンライのお題を偶然見て、書いてみたんですけどね。全然一時間じゃ終わらないし、結局2時間くらいかかっちゃったっす……。
なので、普通にアップしてみました。
紅い花束の続きらしいです。
2015/07/07