WEB CLAP LOG 15

light up the future

『だって、原田さんの炎は暖かそうだったから。』

千鶴のことを意識し始めたのはその言葉がたぶんきっかけ。


原田はあまり自分の能力を好んでいない。
確かに自分は火属性の能力を持ち、力を媒介するこの槍を使えば炎を扱える。だが、魔法士としてその力を発揮することが出来ない。魔法士としての才は持てない家系らしい。ただこの身の内にあるだけの炎をもてあましていた原田を地方巡回していた魔法士が見つけて、この魔法学校で安定させる方法を学ぼうと誘ってくれたのだ。
それまでの原田はいつか自分の傍にあるものを焼き尽くしてしまうのではないかといつも恐怖を胸に抱いていた。知らずに媒介するものに触れただけで不安定な能力が炎が巻き起こしてしまうのだ。親は訳隔てなく育ててくれたけれど、幼い頃、その能力を恐れた周りの親族に邪険にされてきた。故郷に残してきた親兄弟も原田が中央にある魔法学校に行くと決まった時、ほっとしていたのも知っている。皆、原田の炎をどこかで恐れていたのだ。原田自身ですら恐れているのだ。それも仕方ないとは思っている。
そしてこの学校で同じ様に力を持つ仲間を得て、やっと何とかやっていけると思っていた時、千鶴がやってきた。

魔法を使う才能はあるのに、属性がない。その為に安定しない魔法。属性を持つことが出来ない場合はその魔力を封じることになっているのだという。そんな大変な状態でも、前向きで明るく振舞う千鶴。
ただ、何もないということはどの属性にも可能性があるということだ。
属性を持つものと属性について学ぶことで、千鶴は属性をその身につけることが出来るらしい。何を思ったか原田の後をちょこちょこと付いてまわる千鶴を邪険にしながらも、ある意味自分と真逆の千鶴にちょっと興味があったのは事実。
真っ白な千鶴と、真っ赤しかない原田。自分の傍にいたら、このちいさくて綺麗な白が、真っ赤に染まってしまうのがもったいないような気がした。だから邪険にしていたのに。


ある日の晩、就寝時間を過ぎても眠れなかった原田が外の空気を吸いに庭に出た。すると既に先客がいたらしい。小さな人影がひとつ。ポツリと見えた。
近づいてみればそれは千鶴だった。普段明るく飛び回っている千鶴からは想像できないくらいに小さく俯く姿が、泣いているように見えた。
「千鶴……?」
原田が声をかけると、びくりと震える肩。ぐしぐしと袖で目元をこすると、何事もなかったかのように振り向いた。振り向いた顔には、すこし赤くなった瞳とこすれて染まった頬に…いつもどおりの笑顔。
「あれ、原田さん?原田さんも眠れなくなっちゃったんですか?」
ふふっと笑う千鶴の明るい声に、原田は何故か無性に腹が立った。
「何で笑ってんだ?」
「……え?」
「なんで、お前はいつだってそうやって笑っていられるんだ?今だって……。」
泣いてただろう、と言えなくて口ごもる原田に、千鶴はすこし驚いたように原田を見つめて、張り付いていた笑顔が一瞬だけ崩れたように見えた。
「なんでって……。笑ってないと。」
「なんだよ。」
でも次の瞬間には、へへっといつもどおりの笑顔がその陰を消してしまう。
「…………内緒です。」
「ああ?何だよ、内緒って!!」
「ああ、原田さん。そんなに大きな声出しちゃうと、皆さん起きちゃいますっ!!」
原田が苛立ちを露にして張り上げそうになった声に、千鶴が慌てて原田に駆け寄って、口を塞ぐような仕草をする。実際には立ち上がっている原田に小柄な千鶴が届くわけもない。だが、ためらいもなく自分に触れようとする千鶴に、原田がびくりと身体を強張らせた。
「……原田、さん?」
「お前、俺の能力しらねぇのか?お前がもし火属性を媒介するものを持っていたら、……焼けちまうんだぞ。俺に触れたら。」
「知っていますけど、大丈夫ですよ。」
「はぁ?」
強張ったままの原田の言葉に、妙に自信満々の千鶴が反論する。何を根拠に……と呆れた声をあげても千鶴には通じない。むしろ胸を張って大丈夫だと繰り返す。
「大丈夫です。原田さんは優しいから。私が燃えちゃうなんてないです。それに原田さんの炎は、私の未来を照らす灯りだから。」
「……灯り?」
「初めて見た時そう思ったんです。だって、暖かそうだったから。だから……。」
原田は目を瞠った。自分の炎を『暖かそう』なんて言われたのは初めてだった。いつだってそれを見る周りの目は恐怖に染まっていたから。でも、今の千鶴には、原田への信頼の色しか見えない。
(どうして、こいつは笑えるんだ?……俺なんかに大丈夫だって、言えるんだ?……わけわかんねぇ。)
「だから……俺が邪険にしても、ついてきたのか。」
「はい。でも、原田さんはご自分の能力、お嫌い…なんですね。」
呆然とする原田に、千鶴は難しい表情を浮かべて原田に問う。こくりと原田が頷くと、うむむと悩んでいたが、ぽんと手を叩くと、ぱぁっと広がった満面の笑顔で原田を見上げた。
「そうだ!もし原田さんが暴走しても、私が抑えられるようにたくさん勉強します!」
「おま、えが?」
「はい!でも、そうしたらどの属性を学んだらいいでしょうか?……水か風か……うーん。まずそこから勉強しなくちゃ駄目ですね。……でも、まず火属性のことを分からないと駄目ですから、一緒に勉強してくださいね。」
そういって気合を入れる千鶴に、原田は思わず笑い出した。そんな原田に、千鶴はむっとして原田を睨むように見上げる。頬を膨らませて見上げる様子が原田に堪える様子などなくて、さらに笑みを深める原田に千鶴はどんどんむくれていく。
「なんですか!!私は真剣なのに!!」
「いや、悪い。だってなぁ、そんな事いう奴、初めてだったから。」
「むーー!!もう!明日から原田さんが逃げたって一緒に勉強しますから!」
なおも楽しそうに笑う原田に千鶴が怒ってそういうと、原田は笑いすぎて滲んだ涙を拭いながら、こくりと頷いた。
「いいぜ。どうせ魔法も使えねぇのにって逃げてたけどな……お前となら楽しそうだ。」
「……えっ?いいんですか。」
「お前、今、逃げたってやるっていってたくせに、何驚いてんだよ。」
「だって。でも、嬉しいです。じゃあ、もう今日は寝ないと!……ほら、原田さんも。早く寝ないと明日遅刻しちゃいますよ。」
嬉しそうに微笑んだ千鶴が、原田の手を取った。そのふわりとした優しい感触と移ってくるすこし高い体温がくすぐったい。だけど、久しぶりに触れた他人の手のひらの感触がこんなに嬉しいなんて。
「そんなに急ぐと転ぶぞ。」
「大丈夫ですって、ほら、早く!!」
そういって、原田の手を取ったまま走りだす千鶴が眩しくて。
どんな属性を持ったとしても、きっと千鶴自身は綺麗な白い光を放ち続けるのだろう。そんな千鶴となら、一緒に楽しい未来を見れるんじゃないかと原田は思う。
(俺がお前の灯りなら。……お前は俺の光、だな。)



end.

20120806
公式エイプリールフールのワンドな千鶴ちゃんに萌まくってうっかり書きだしたものの。
着地点がつかめないまま、放置していたんですけど、やっとエンドマークを打てました。

ワンドを知らない人にはちんぷんかんぷんかも。
でも藍羅も触りぐらいしか知らないので、設定だけ拾った偽物です。
左之さんは火、沖田君が風、一ちゃんが水とか勝手に妄想。土方さんは光でちー様が闇?逆の方がいいかも。
でも、続きません。もう無理。

私ってひょっとして千鶴ちゃんが一番好きなのかもしれないと思う今日この頃。


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