WEB CLAP LOG 14

犬も食わない

相談者:Sさん

最近、うちの嫁さんが変なんだ。……はあ?惚気?そんなんじゃねえよ。真面目な話なんだって!いいから聞けって。
最近、嫁さんが俺と目を合わせてくれねえんだ。あ?そんだけ?何だよ!「そんだけ」っていうけどなぁ。これは大問題なんだって。
今までだったら、俺が帰るとぱっと顔を上げて、駆け寄って来てな、「おかえりなさいませ、左之助さん」ってもう、これ以上ねえってくれえの笑顔でな、出迎えてくれたんだよ。……待てって。惚気じゃねぇって。聞いてくれって。
それが最近違うんだ。ちゃんと出迎えてくれるし、別に俺が帰って来て嫌だってわけじゃなさそうなんだが、目を逸らすんだよ。ちゃんと見てくれねえんだ。
俺の顔を真っ直ぐ見てくれねぇ以外はいつも通りなんだ。笑顔だし、子供とも楽しそうにしてるしな。
だけど、視線を感じて嫁さんの方を見ると、ぱっと逸らされる。その繰り返しでよ。
……俺、なんかしちまったんかな。言いたい事があるけど、俺の顔見ると言えねえ、とか?
ああ、どうしたらいいんだ?
うん?「愛情表現が激し過ぎる所為?」……別に普通だろ。俺の可愛い嫁さんに可愛いって言って何が悪いんだ。「求め過ぎ?」別に無理強いなんてしてねえぞ。ちゃんと嫌だって言えば、………止めるし。なんだよ!!その疑いの目は!!「俺に言えない秘密が出来た?」……そうなんだよ。それが怖いんだ。どうすりゃいい?俺はいいんだ。あいつがその事で苦しんでるんならその方が辛いだろ?何で言ってくんねえんだろうな……。俺、そんなに頼りないか?
ともかく、困ってんだよ。なんとか聞き出してくれねえか?な、頼むよ!



相談者の嫁:Cさん

えっ?うちの人、そんな事言ってたんですか?すみません。そんなことでわざわざ来ていただいて……。
「なんで目を逸らすのか」……ですか?
そんなにうちの人悩んでたんですか。……恥ずかしい。本当に申し訳ありません。
大したことじゃないんです。……いえ、なんていいますか……。
別に困ってる事があるとか、あの人に隠し事があるとか、そういうんじゃないんです。
あの、ですね。……内緒ですよ………。




***

最近、千鶴がおかしい。
誰が何と言おうと、おかしい。
いつも世話になっている隣の夫婦に相談してみたりもしたが、理由がわからない。相談に乗ってくれた夫婦は千鶴に聞いてみてくれたらしいが、どうも要領を得ない。どうしても気になるのなら本人に聞いてみろ、ときた。……それが出来ねえから、相談したんだってのに。
だが、恥を忍んでなかなか聞く耳を持ってくれない相手にまで(惚気何ぞ聞きたくないと逃げるのをひっつかんで無理矢理聞かせた)相談したんだ。気にならねぇ訳が無い。遊び疲れた息子が寝着くのを今か今かと待ち続けて、やっと夫婦の時間だ。今日は絶対に聞き出してやる。
「なあ、千鶴。」
「はい、なんですか。」
「……最近、何で俺と目ぇ合わせてくれねえんだ。」
「あ、……そ、そんな、訳ないじゃないですか。ちゃんと……。」
単刀直入に聞いてみる。まどろっこしいのは苦手だし、変な所で鈍い千鶴にはこれくらい真っ直ぐに聞かねえとな。そんな俺の言葉に千鶴は、やっぱり俺の顔を真っ直ぐ見る事なく、びくりと肩を震わせて視線を泳がせる。
「いや、そんなことある!!全然だ。……俺、何かしちまったか?俺の顔見るの嫌になったか?」
「そんなわけ……。」
「じゃあなんだってんだ!!」
「「………。」」
じっと千鶴を見つめる。視線を合わせないにらめっこが随分長いこと続いたが、俺の視線を横顔に受ける千鶴が、とうとう折れた。しょうがないといったふうに大きく溜息をつけると小さな声でぽつりと呟いた。
「………かしんです。」
「あ?何だって?」
「恥ずかしいんです!!」
「………は?」
「だって最近の左之助さん、すっごく恰好いいんです。それは昔から恰好よかったですけど、最近特に……。だから、真っ直ぐ見れなくって……。」
「はぁ?」
「とにかく!!左之助さんが悪いんです。……そんなに恰好よくなっちゃうから!!」
顔を真っ赤に染めて、千鶴が俺の胸元をぽかぽかと叩く。そんなことでどうにかなる俺じゃないが、千鶴の言葉に呆然としてしまい、されるがままになってしまった。


その後、なんとか要領の得ない千鶴の言葉をまとめると……俺が千鶴の好みの容姿に近づいたのが原因らしい。俺も三十半ば、年食ったと思ってたんだが、千鶴にはそれが好みだったらしい。それに気付いちまってから照れてしまって……っていうのが真相なんだと。
親父さんを女一人で京まで追ってくるほどの父親想いな娘だからか、確かに源さんとかに随分なついてたしなぁ。

……悪い。本当に悪かった。
だから、呆れるなって。俺は本気で悩んでたんだって。……結果的に惚気を聞かせちまっただけになっちまった。
ちっといい酒買ってきたからよ。また相談乗ってくれ?な?



end.

20120520
すみません!!!

もっのすごくくっだらないものを書いてしまった自覚はそれはもうたっぷりと……。
もし、千鶴ちゃんが渋好みだったら……という。

顔で好きになった訳ではない千鶴なので、ある日、年齢を重ねてダンディなおじさんになった左之さんの魅力に気付いたら……とか、思ってしまって。
本当にすみません。ギャグだと思っていただけると……。
なので、いつもと違う語り風の文章にしてみました。成功しているかどうかはともかく、私はすっきりしました。
ごめんなさい。


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