WEB CLAP LOG 10

天使の逆襲

アパートを飛び出した千鶴を探して外に飛び出した俺は、アパート近くの公園のブランコに揺れている千鶴を見つけた。やっぱり此処だったかと言う安堵が広がる。だけど、飛び出してきたものの、小さく揺れる背中になんて声をかけていいのかさっぱりわかんねぇ。きっと今を逃したら駄目なんだと、きっと前に進めないと何かが教えてくれる。でも、気の聞いた台詞なんて一つも思いつきやしねぇ。
でも、俺が良いんだといってくれたこの小さな背中をこのまま、逃してしまうわけにはいかねえんだと、搾り出すように声をかける。
「なあ、千鶴ちゃん……。」
「『ちゃん』は要りません!」
俺が後ろにいることにとうに気付いていたらしい千鶴のピシリとした声が響く。気圧された様に口をつぐむ俺に千鶴ちゃんの今にも泣き出しそうな声が届く。
「私、新八さんの何ですか?まだ妹分なんですか?」
「そんなことねえ!」
やっと手に入れた千鶴がそんなふうに思っていたことに衝撃を受けながらも否定の言葉を口にするが、千鶴はキッと強い視線でこちらを振り返る。ものすごく怒っている。
「そんなことあります。いつまでも『ちゃん』付けのままで、デートのときも手を繋ぐだけだし。……確かに子供っぽいですけど。私だって努力してるんです……。なのに……。」
「ど、努力?」
「そうです!頑張って「新八さん」って呼べるように練習したし!少しでも大人っぽくなれるようにお化粧教えてもらったり、お洋服の選び方とかも勉強して、毎日牛乳だって飲んで……。」
「は?牛乳?」
「だって、む、胸を大きくするのは牛乳が良いって、沖田さんが……。」
急に飛び出した単語の意味が解らず、思わず聞き返す俺に、今まで鋭く向けていた視線を彷徨わせ、怒りではない色で頬を染めた千鶴が小さくぼそぼそと呟いた。牛乳?そうなのか?少なくとも俺は聞いたことがない。それより、なんでそんなことを総司の奴がアドバイスなんてしてんだよ!
「千鶴」
「……っ!。はい。」
「そんな相談、他の男にすんな。するなら俺にしろ。」
「で、でも……。出来ないです。そんな相談……。」
頬を真っ赤に染めて千鶴が困った声を上げる。そりゃそうだろう。俺への悩みを俺に相談しろって言ったって無理な相談だとわかってる。だけど、それでもなんでも他の男に頼る千鶴を黙ってみていられるほど俺はお人よしでも大人でもない。隙あらば俺から千鶴を奪おうとしてる道場の奴らなんてもってのほかだ。でも、千鶴は奴らにどんな相談をして、あんな答えが返ってきたんだ?
「ほう、どんな相談だ?」
「新八さんにつりあう大人な女性になるには何が足りないのかなって。……あっ!」
困り果ててる千鶴に突っ込んでみると、根が素直な千鶴はポロリと零してしまう。俺につりあう女性ねぇ。俺ってそんな大層な男じゃねえだろう?その相談をされた道場の奴らの困った顔が思い浮かぶ。でも、きっと千鶴は必死だったんだろうなって思う。だから、総司のからかいの絶好の標的になっちまうんだよなぁ。きっと総司にあることないこと吹き込まれたに違いない。真っ赤になって俯く千鶴の前にしゃがみ込んで顔を覗き込むようにして話しかける。
「なあ、千鶴ちゃ……千鶴。俺たちさ、お互いに付き合うことを意識しすぎてそればっかりになってたんだな。」
「新八さんも?」
「ああ、あの小さかった千鶴ちゃんが俺の彼女だなんてな、今でもどうしていいかわかんねえよ。」
「そう、なんですか?……多分、私もです。ずっと見てるだけだったのに、急に傍に入れるようになって。もう、どうしていいかわかんなくて……。」
「うん、だな。俺たち似た者同士だな。……すまねぇ。」
「ううん。私こそ。」
「いいや、俺が悪いんだよ。こうして千鶴に触れてみれば全部わかる事だったのにな。」
そういって覗き込むように近づけていた額を千鶴のそれに軽く当てる。今までにないくらい近づいたお互いに真っ赤に頬を染めて、でも、とっても嬉しそうに千鶴が微笑む。ああ、きっと俺もみっともないくらい真っ赤だ。やわらかい鳶色の瞳に俺が映ってる。近づいてみればこんなに簡単で、でもすっげードキドキする。それでも一度触れてしまえば、もうやめられそうもねぇ。
勢いのまま、ずっと触れたくて触れられなかったその唇に、軽く触れるだけのキスを落とす。
そうすれば、千鶴の顔はもう爆発するんじゃねえかってくらい赤くなって。うっすらと目元に光る涙が綺麗で、思わず目元にもキスをしちまった。
「んっ……。」
ビクリと震えてふわりと漏れた千鶴の吐息が熱い。吐息と共に漏れた声に、今度は俺がビクリと震える。ヤバイ。違うスイッチ入っちまいそうだ。今まで怖くて目を逸らし続けていた千鶴の成長を今更実感して、身体の中の熱が上がる。うっすらと化粧の匂い、男と違う花のような甘い香り、やわらかい肌。そうだよな。千鶴はもう大人で、俺が惚れた女で俺に惚れてくれた女だ。……駄目だなぁ、俺は。こんなになるまで何にもわかってなかった。
「新八さん……。嬉しい、です。」
「……………………ぉぅ。」
ふんわりと微笑んだ千鶴の仕草に、耐え難いほどの色香を感じて思わず、ごくりと喉がなる。…………いやいやまてまて。自覚したからといっていきなりそれ以上進むわけにもいくまい、とぐっと色々なものを飲み込んだ俺を見て、千鶴が小首をかしげる。その仕草すら、俺を煽っているように見えちまって思わず目を逸らしてしまう。とりあえず、このまま公園にいるのはまずいだろ?アパートに戻らないと、な。
「ち、千鶴。ひとまず、部屋に戻るか?」
コクリと頷いた千鶴の腕を引いて、アパートへの道を歩く。

アパートに帰れば、そこは二人きりの部屋。…………よく今まで平気だったよな、俺。

俺の理性、頼む、堪えてくれ!



end.

20110724
前のながちづの続きだと思ってくださると助かります。
甘食な胸の成長に何がいいのかはよくわからなかったので、沖田さんの嘘ってことで流していだたきたい。
新八さんはやっぱり鈍感なのがいいです(笑)。で、意外と奥手がいい。
……わたしの中の新八さんって……orz。


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