WEB CLAP LOG 08

放課後、みんなが部活動の時間になるとお邪魔しているところがある。−−−保健室、山南先生の仕事場。
いつも微笑んでいるのに瞳の奥は違っていることに気付いてから、山南先生が気になって仕方がない。その瞳の奥の山南先生の本当が知りたくて、保健室に通い始めた。だけど皆に知られると止められてしまうので、そっと忍ぶように通い続けている。
「保健委員になろうと思うの。」
山南先生の下に通う口実のために、そう平助君や沖田先輩に言ったことがある。その時の大騒ぎを考えると今でも不思議でならない。
「……は?なにいってんだ、千鶴。……正気か?」
「千鶴ちゃん、寝言は寝てるときにしてね。」
「ひどい、平助君。沖田先輩も。中学のときとかもやってたじゃない。だから……。」
平助君はこの世の終わりみたいな顔をするし、沖田先輩は私の顔の前で手を振ってほっぺを抓ろうと手を伸ばしてきた。その手からなんとか逃げながら、本当の理由を悟られないように言い訳をしてみるけれど皆の反応は変わらない。しまいには斎藤先輩や山崎先輩までが、止めてきたっけ。山崎先輩は保健委員のはずなのに、どうして止めるのかな?
「雪村、悪いことは言わん。そこだけは止めておけ、委員会に所属を考えているなら……。」
「ちょっと一君?なに千鶴ちゃんを誘惑してるの?風紀委員なんて千鶴ちゃんには似合わないよ。」
「……っ、ゆ、誘惑とはなんだ、総司。ただ、委員会活動をしようという雪村の心がけを生かすならと思っただけだ!」
そんなお二人の言い合いをどうしようもなくおろおろしていると、山崎先輩までが常に無い様子で止めてくる。
「雪村君、斎藤さんの言うとおりだ、悪いことは言わない。保健委員だけは止めておいたほうがいい。」
「でも、山崎先輩は保健委員ですよね?」
「……うっ。お、俺は大丈夫だ。だか、君は止めておいた方がいい。」
「珍しく山崎君と意見が合うね。千鶴ちゃん、犠牲は山崎君だけで良いんだからさ、君は止めときなよ。じゃないと悪戯しちゃうよ?」
「そうだよ、どうせなら剣道部のマネージャーやれば良いじゃん。千鶴なら土方先生もOKだろ?」
あまりにも皆必死になって止めてきて、収拾がつかなくなりそうだったからしぶしぶ頷いて見せた。
「……。わかりました。今までどおり帰宅部で良いです……。」
そういうと、あからさまに(沖田先輩まで)安堵の表情を浮かべる。どうして皆そんなに山南先生を怖がるのかしら?確かにいろんなうわさは耳に入ってくるけど、そんな先生じゃないと思うんだ。


それ以来皆がそれぞれの活動に向かった後、家に帰るふりをして山南先生の所に向かう。
お昼休みに皆と保健室に行くこともあるけど、みんな警戒して山南先生の傍には近寄らせてくれない。だからこうして誰にも内緒で山南先生に会いに行く。
山南先生にお茶をお入れして、手伝えることがあれば手伝って。お仕事をする先生の後姿を見つめながら時間を過ごす。すこしお仕事の手を止めて私とお話をしてくださる時もある。そうして何回か通っているうちに、止められなくなっていく。どうせ家に帰っても誰もいない。それならこうして山南先生と一緒にいたい。いつからかそう思うようになっていて。興味から、寂しさからだけじゃない。どうしてかな。あの瞳の奥の悲しそうな光を違う色に変えたくて、……私を映して欲しい。この気持ち、なんて言えばいいんだろう。

「いつでもいらしていただいて構いませんよ。」
此処に来る理由を聞かれて、思わず「山南先生にお会いしたいから」と言ってしまった私に言ってくださった一言だけを免罪符にして、今日もまた、山南先生に会いに行く。



end.

20110510
山南先生の毒牙にかかった(笑)千鶴ちゃん。


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