WEB CLAP LOG 07

放課後、生徒たちの部活動を行う声が遠くに聞こえてきます。
私、山南が仕事をする保健室は、学園でも奥まった静かな場所にあります。それでも日中は、昼休みなどに生徒がやってくるから賑やかなものですが。今の時間は保健委員の山崎君も部活動に行っている時間ですから、保健室には私一人です。静かで落ち着く空間ですね。

事務処理をやっていると、そっと保健室のドアを開く音がしました。
「山南先生?失礼します。」
そっと響く声は、女の子の物。振り返らずとも誰かはすぐに分かります。この学園唯一の女生徒、雪村君。諸事情で男子校同然の我が学園に入学した彼女を、学生獲得の為に散々利用している私ですが、彼女は何故か慕ってくれているようです。こうして誰も保健室にいなくなる時間になると、そっと現れるのです。沖田君や藤堂君などと昼休みに遊びに来る事はありますが、その際は私に話しかけてくることもありませんが、こうして度々放課後になるとそっと訪れていきます。仕事をする私を手伝ったりすることもありますが、何をするでもなく時を過ごすとにこやかに帰っていきます。
……彼女は生徒の間に流れる私のうわさを知らないのでしょうか。
「どうしましたか。雪村君。」
「お邪魔でなければ少し此処に居させてもらってもいいですか?」
「……かまいませんよ。」
振り返って雪村君を見ると、少し困ったように小首を傾げて微笑む雪村君がいました。……あまり向けられた事のない仕草にどきりとなる鼓動を押し隠しながら許可を出して、書類に目線を戻しました。そのまま、書類に目を落としながら、疑問に思っていた事を聞く事にしました。もし悩みがあっても言えずにいるのなら、保健医としてはほおっておくわけにはいきません。
「そういえば、雪村君は何故こちらにいらっしゃるのですか?」
ソファに荷物を置いて、私のお茶を用意しようとしていた雪村君は、ぱたりと手を止めて振り返ると慌てたように答えます。
「えっと、山南先生にお会いしたくて……駄目でしょうか。」
「いえ、大丈夫ですよ。ですが、なにか悩みごとでもあっていらしているなら、聞きもせず仕事ばかりして保健医失格だなと思いましてね。」
「そんな!山南先生はそんな方じゃありません!」
自嘲気味な台詞に雪村君は大仰に首を横に振って否定してくれます。そのあと、おずおずとこう切り出してきました。
「……悩みっていうか、困った事はあります。」
「ほう、何でしょうか。」
「私、もっと山南先生とお話ししたんですけど、みんなに止められてしまって……。だからこうして放課後みんなが部活動に行く時間に来るようになったんです。どうしてみんな止めるんでしょうか。」
「………。」
本当に困った様子で雪村君は話してくれるのですが、どう考えても皆さんの判断の方が我ながら正しく思えます。今までの事を考えれば、南雲君・藤堂君辺りは強硬に反対をするでしょう。
「そんなに私と話をしたいのですか?」
「はい。」
それはそれは可愛らしくはにかんだ笑顔で雪村君が頷いてくれました。……これは参りました。土方君や原田君までが彼女を構いたくなる気持ちが分かった様に思います。
「それでは、いつでもいらしていただいて構いませんよ。」
おもわずそう答えている自分にも、驚いてしまいます。何故でしょうね。きっと彼女が来なくなってしまったらとても寂しいように思えてしまいます。
「本当ですか!……嬉しいです。」
入れ終えたお茶を私の机に置くとふんわりと本当に嬉しそうに微笑んでくれました。

ああ、こういうのも悪くないですね。



end.

20110410
SSLで山南先生と千鶴ちゃんの微笑ましい放課後の逢瀬。でした。


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