WEB CLAP LOG 06

どうしようもない僕に天使が降りてきた

「もう知りません!」
 めったに感情を荒げない千鶴が、そう叫ぶと俺の部屋を飛び出した。俺はあまりの事にとっさに動けずに固まってしまう。乱暴に開けられたドアが大きな音を立てて閉まる。その音で我に返った俺は、ガシガシと頭を掻き回す。
「くそっ!やっちまった。」
 原因は分かってる。俺のバカみたいな劣等感。

 俺の通っている道場に、兄の様子を見にやってきたあいつ。気付けば練習日には必ず顔を出して、マネージャーの様に皆の面倒を見てくれた。そんなあいつを道場の面々が可愛がらないはずがない。どうせ、おいしいところは他の奴が持って行くんだろうと思っていたが、なんとあいつはこんな俺を好きだと言ってくれた。
 剣術馬鹿で気の利いた事の出来ない俺なんかのどこがいいのだろう。どう頑張っても左之や土方さんのようにスマートな事なんか出来るはずもなくて。それでも俺に出来る精一杯を千鶴はいつも喜んでくれた。
 でも、こびりついた劣等感はそう簡単に消えてはくれない。
 千鶴が話してくれた、友達の彼氏とやらのサプライズな行動が、馬鹿な俺をいじけさせた。あいつはそんなつもりで言ったんじゃないと言ってくれたが、一度へこんだ俺の気持ちは、どんどん沈んでいく。そんなあいつはもどかしそうに言葉を重ねていたが、とうとう瞳いっぱいに涙を浮かばせて叫んだ。
「私が好きなのは、不器用でも私を好きだって言ってくれる新八さんなんです!」

 ああ、わかってるさ。誰の真似をしたって仕方ない。俺は俺だ。千鶴を好きな気持ちは誰にも負けない。そんな俺を好きだって言ってくれる千鶴を信じないで、何を信じるってんだ。
 こんなどうしようもない俺に神様がくれた天使を手放してなるもんか。

 きっと近くの公園で泣いているだろう、天使をつかまえる為に、俺は全速力で駆けだした。



end.

20110123無料配布【LoveSongs】より


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