WEB CLAP LOG 05

猫がふんじゃった

 既に日付も変わった頃、俺はやっと家に戻る。千鶴の連れてきた猫が俺の帰宅に気付いて、千鶴を踏みつけながらやってくるとすり寄った。その様子に笑いを押し殺して猫を軽く撫でるとぼそりと呟く。
「ああ、今日はついてなかったぜ。」

 折角千鶴が泊りに来るという日に限って仕事が後から後からやって来て、気付けばすっかり深夜。遅くなると連絡はしたが、千鶴もこんな時間になるとは思ってねえだろうと思いながら帰ると、千鶴は俺のベットで待ちくたびれて眠っている。
 眠ってしまった千鶴を起さない様にそっと覗きこむ。いつもは穏やかな千鶴の表情が険しい。眉間には深く皺が寄り、閉じた瞳には薄らと涙の跡。そのはっきりと残る千鶴の心細さに気付いて、自分の不甲斐なさが身に染みる。
(ごめんな、千鶴。明日は一緒に居れるから。)
 そう心の中で詫びる。千鶴は俺に気を使ってなにも言わない。連絡に返された返事は俺の身体を労わる言葉だけ。だけど、寂しかったんだな。

 簡単に休む支度を調えると、千鶴の眠るベットに潜り込む。俺の重みできしむベッドに揺られて千鶴が薄らと目を覚まし、俺に気付く。
「さの・・すけさ・・ん?」
「ああ、悪かったな。」
 眠そうな声が、ふわふわと俺の名を呼ぶ。俺は詫びを口にする。千鶴は俺を認識すると、頬にぱあっと微笑みを広げた。そして腕を伸ばすとふわりと俺の首に手を回し、首筋に猫のようにすり寄って、身体を落ち着けると再び眠りに着く。
 普段なかなか見せてくれない千鶴の素直な甘えに、俺は起こさないように軽い口づけを落として、深く千鶴を抱きこむと目を閉じる。その二人の足元に猫もやって来て、くるりと丸まって目を閉じる。その気配に俺は目を閉じたまま微笑んだ。

 抱きしめた千鶴と、足元の猫のぬくもりにまどろみながら明日の予定を考える。千鶴が困ってしまうぐらい目一杯甘やかして、抱きしめて。猫も逃げ出す程の甘い刻を過ごす。俺はそんな休日の予行演習を夢で行う為に眠りについた。



end.

20110123無料配布【LoveSongs】より


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