WEB CLAP LOG 03

僕のものになればいいのに

 きっと出会ったときから、恋に落ちていた。

 共通の知り合いとの飲み会で偶然知り合った。帰る方向が一緒で、同じ電車に乗って他愛もない会話を続けた。俺は無口で、気のきいた会話など出来ないが、彼女と一緒だと時折途切れる会話の間の沈黙が心地よい。先に電車を降りる俺がホームに降りると、彼女―千鶴がこちらを見つめて優しく微笑んで手を振ってくれていた。その笑顔を見て、俺は思わず彼女の腕をつかみ、電車から降ろしてしまっていた。その次の瞬間、電車のドアが閉まる。
 ・・・終電だった。
 己の行動に驚いて何も言えずにいる俺と、突然の出来事に固まっている彼女。ああ、俺は彼女を帰したくないと思ってしまったんだ。このまま、別れてしまいたくない。
 掴んだままの腕を引いて、彼女を抱きしめる。
「すまない、だが、俺は・・・。」
「・・・いいんです。私もまだ一緒に居たかったです。」
 その囁くような答えに、抱きしめる腕に力がこもる。
 抱きしめた腕を解いて、でもその腕は放さないまま、俺は歩きはじめた。二人、無言のまま、俺の部屋に辿り着く。
 心に湧きあがる衝動のままに、彼女を再び抱きしめると、震える彼女の頬に手をおいて口づけをする。俺は、こんな衝動に流されるような人間だっただろうか。彼女だってそんなふうな女性には見えない。だが俺は拒まない彼女に、何度も口づけを降らす。
 口づけを繰り返すうちに、彼女ははらはらと涙をこぼす。そして言った。
「・・・ごめんなさい。婚約者がいるんです。」
 その言葉に俺は息をのんだ。
「だけど、あなたにふれて欲しいと思う自分がいるんです。どうして・・・。」
 続けられた言葉に、俺は彼女の頬を濡らす涙を拭いながら呟いた。
「俺のものになればいい。」
 彼女は否定も肯定もせず、はらはらと涙を流し続けている。その小さな身体を俺は抱きしめて、もう一度同じ言葉を呟いた。


end.

20110123無料配布【LoveSongs】より


inserted by FC2 system