狂い咲きの

※沖田君のED後、更に時が過ぎて沖田が死んだあと、という設定です。
ついでに息子ありという捏造もあります。ついでになんだかちょっとファンタジーです。
苦手な方はご遠慮ください。












今年も狂い咲きの桜が咲く。

まだ雪の降る頃、千鶴の住む家の庭先の山桜が一本だけ、花開いた。
もう何年もこの桜一本だけが、今時分に狂い咲く。

沖田と雪村の地に住み着いてもう10年以上が経った。
千鶴を蝕んだ羅刹の毒は数年ですっかり消え去った。授かった息子に心配した影響はなかった。だが、やはり沖田の羅刹の毒と労咳は全て消えることはなく、少しずつ蝕んでいた。少しずつ衰えていく身体で、それでも残された日々をいとおしむ様に5年余りを生きて沖田は逝ってしまった。
その日、雪の中、一本の山桜が咲き誇った。
桜は、切なく生き急いだ新撰組の皆に似ている。最初千鶴は先に逝ってしまった皆が沖田を迎えに来たのだと思った。
けれども、その次の年もそのまた次も、その桜は一本だけ狂い咲いた。
まるで、「僕はここにいるよ。」というように。

沖田のいない悲しみは今でも癒えない。
それでも、自分には守らなくてはいけない存在がいる。だから、精一杯沖田の分まで息子の幸せを見届けなくてはいけないと生きてきた。
(総司さん。私ちゃんと出来ているでしょうか?)
この桜の下でなら、それが出来ると思っていた。……いや、此処でなければ駄目だと思っていた。

「母様?どうしました?」
今年も狂い咲いた山桜の下で、千鶴が佇んでいると息子が駆け寄ってくる。
「お父様の桜とお話をしていたんですよ。」
「じゃあ、邪魔しちゃ駄目ですよね。父様、いっつも僕が母様と一緒にいると機嫌悪かったから。」
つまらなそうにそういって息子は、家と戻っていく。確かにいつも沖田と息子は千鶴を取り合っていた。そんな子供っぽさを見せる沖田だったが、礼儀作法などにはしっかりとしたしつけをしていてびっくりしたものだ。新撰組の中でも数少ない生来の武家に生まれ、内弟子として厳しい教育を受け育った為だろうか。
「母様!寒いんですから、程々にしてくださいねー!」
家に戻る息子が振り返り、声をかける。その息子に答えるように大丈夫だと微笑んだ。

『息子にしっかりとした教育を受けさせるには、此処では駄目だ。』
沖田が亡くなってから千姫や松本らに山を降りるようにいわれている。元々が鬼の隠れ里。近くの里からは離れている。母子二人で暮らすには寂し過ぎる場所だ。千鶴も沖田や新撰組の皆の生きた江戸や京を息子に見せたいと思う。千姫や松本の傍で暮らせば、どれだけ心強いことか。
わかっているのだ。千鶴にも。
同年代の子供のいないこの場所は息子に良くない事。
だけど。
沖田と最後に過ごしたこの場所を、この桜の傍を離れる決心がつかない。桜が咲くまでといいながら、ずるずると此処で暮らしている。桜が咲けば、次の桜が咲くまでと。

桜を見上げて、千鶴はぽろりと涙を零す。
「ちゃんとあの子を立派に育てるって約束したのに。ごめんなさい。総司さん。……やっぱり総司さんから離れたくないんです。」
その時、不意に散っていく桜の花びらが風で舞い上がり千鶴を包む。驚いて千鶴が目を閉じた時、懐かしい声が聞こえたような気がした。
息子は家に戻ったはずで、この里に他に住んでいるものはいない。吃驚して目を開ける。すると風は止んで、千鶴の周りは桜色の敷物を敷いたように桜の花びらで埋め尽くされて。見上げれば、桜は全ての花を落とし、まるで咲いていなかったかのように静かに佇んでいる。
まるで狂い咲きが幻だったかのように。

その時、もうこの桜は狂い咲く事はないのだと覚る。どうしてそう思ったのかは千鶴にもわからない。
ただ、この地を離れろ、と花びらに包まれた一瞬にいわれたような気がする。


春になったら。
千鶴はそう決めた。息子を連れて、山を降りよう。
そして、沖田が生まれて千鶴の育った江戸と沖田と出会った京を息子に見せよう。

……大丈夫、此処から離れてもきっと生きていける。


(大丈夫、何処にいても千鶴の傍に居るからね。)


もう一度桜を見つめて一面の桜色の中、千鶴は歩き出した。



end.


お題「薄 桜 鬼で拾のお題」より
1:狂い咲きの

随分久しぶりの沖田君です。
桜のイメージは土方さんですが、狂い咲きの、だったら沖田君かな、と。
沖田君の千鶴ちゃんは一番少女な感じがするので取り残されてからふっきるまでが時間がかかりそうな感じがするんですよね。
年長組の千鶴ちゃんは総じて強そうです。強さのベクトルが違いそうだけど。
年少組の千鶴ちゃんで一番強いのは平助君の千鶴ちゃんかなと思っています。

2011/08/12


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