大切な話をしましょう

どうしよう。

ここ最近私の頭を駆け巡り続けている言葉。


子供が出来たみたいだ。間違いないと思う。
気だるい日が続いて、いままで何ともなかった匂いで吐き気がする。
食欲もない。なにより、月役が止まっている。

総司さんと私の子供。
この身体に命が宿ったんだ。

落ち着かない体調と気持ちでぼんやりしていることが多くなってしまい、すっかり総司さんには怪しまれている。家事をしていても、お昼寝をしていても、挙動不審な私から優しく聞き出そうとしてくれるのだけど、押し黙り続ける私にそろそろ業を煮やしていることだろう。そろそろ何をされるかわからない。


どうしよう。いつ総司さんに言おう。
伝えなくちゃいけない、わかっている。でも・・・すごく、怖い。

鬼の血。羅刹の毒。そんな悪いことばかりが頭をよぎる。


・・・・ああ、怖いのはそんなことじゃない。
私が怖いんだ。
鬼の血をひく子供なんていらない、って拒絶されてしまうのが。


***


夜、夕餉の片付けを終えて、縁側に出て杯を傾ける総司さんのところに向かう。
月明かりに照らされた総司さんを見つめる。言わなきゃ、と心に決めてきた。

「総司さん、あの」

私の声に、振り向いてくれる総司さんに向かって、一言伝える。
「子供が出来ました。」
振り向いた総司さんの顔が固く凍りつく。その瞳の奥にある戸惑いを見て私の心が冷たく冷たくなっているのを感じた。それと反対に眼の奥は熱くなっていく。

「そろそろお湯の準備をしてきます。お湯で温まってからお休みしましょう?」
涙がこぼれてしまう前に、逃げるように総司さんのもとを離れた。


***


総司さんは何も言わなかった。追いかけてもこない。
お風呂を準備するといって総司さんのもとを離れたけれど、気付いたら私はいつも総司さんとお昼寝をする草原に来ていた。昼間の暖かさはもうなく、夜の冷えた風と虫の音がするだけ。
いつもお昼寝をしている暖かい場所。婚姻の約束をした、大切な場所。自然とこの場所に来ていた。
夜だということ、一人だということだけで、こんなにさみしい場所と感じてしまうなんて。

涙がこぼれるかと思ったけれど、不思議と涙は出てこなかった。ただ、心が冷たい。
わかっていたことだけれど、総司さんの反応が心に突き刺さって抜けない。優しい言葉が返ってくるとは思っていなかったけれど、実際の反応を見てしまうと想像以上の胸の痛みに苛まれる。
言わなければよかったのかな?
医者の娘だった私には、お腹の子供となかったことにする知識もある。望まないからとその手段をとり、だけど泣き叫び子供を堕胎する人を見たこともある。子供心にもあんなことになりたくないと思いながら。でも心に焼き付いて離れない光景。

総司さんに知らせないまま、その手段をとればよかったのかな?総司さんを困らせるくらいなら、私だけが罪を背負っていけばいい。
・・・いまならまだ間に合うかな?
相談しないまま堕胎して。「勘違いでした。ごめんなさい。」と微笑めば。それでなかったことにできるだろうか?

凍りついた心は、どこまでも恐ろしいことばかり考えていく。

時間を忘れて考えていると冷えたのか、身体に震えが起きる。その時、無意識にお腹を抱えて温めるようにしゃがみこんでハッとする。

ああ、このお腹の中には総司さんの子供がいるんだ。どんなことを考えても、身体は無意識に大切なものを守ろうとする。
・・・・そんな大切なものに私は何をしようと考えていたんだろう。
堕胎する。・・・そんなことできるはずがない。
だって、総司さんの子供なんだ。私の鬼の血をひいている子供だけど、間違いなく総司さんの血も引いている。殺してしまうなんて、そんなことできるはずがない。

羅刹の血がどんな影響をおよぼすかわからない。
鬼の血も確実に引いているだろう。
それでも。

総司さんと私の大切な大切な命が、ここにいるんだ。


そうだ、総司さんだっていろいろ考えているに違いない。
私がずっと悩んだように。子供を素直に喜べるような状況でないのは総司さんだって同じなんだ。

総司さんのところに戻らなきゃ。
一人で悩んでいてはいけない。ちゃんと総司さんと考えていかなくちゃ。・・・この子のために。二人のために。


大切な話をしましょう。



end.

無反応だった総ちゃんのもとを離れた後の千鶴ちゃんです
基本的に総ちゃんの千鶴は、打たれ強くしっかりと総ちゃんを受け止める女性だと思っています
いつでも子供っぽい総ちゃんの相手をしてきた千鶴ちゃんなので
それでも子供が出来るってのは女性にとってとても大きいことなので、ちょっと迷ってしまうかなと
でも、最後はしっかり覚悟のできない総ちゃんを受け止めていくんじゃないかな
そう思って書いたのがこれです
うまく表現できない自分が悔しい。

いつか、もうすこしでも表現力がついたら、この後の大切な話をする部分も書いてみたいです。

2010/11/06


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