親愛なるお姉さまに捧ぐ


※春生まれの方にプレゼントした作品の為、千鶴ちゃんが春生まれという設定になっています。ご了承ください。





魔法のリングにKissをして

「すみません、土方先生。遅くなっちゃって。」
「待ってねえよ。大丈夫だ。」
千鶴が大学を終えて土方との待合わせ場所に向かうと、すでに土方は着いていて、助手席のドアに寄りかかる様にして待っている。駆け寄ってきた千鶴の声に答える声が優しい。近寄ると、土方がふわりと破顔して、千鶴を迎えてくれる。そして千鶴の耳元に顔を寄せると、甘く低い声が囁くように降ってくる。
「それより・・・先生じゃねえって。もう一年になるぞ。どうやって分からせたら、お前はちゃんと俺を名前で呼んでくれるんだ?」
その声と内容に、千鶴の背筋がぞくりと震えて、頬が真っ赤に染まる。千鶴だって何度も練習をして呼ぼうと頑張ってはいるのだ。だが、出会ってから3年間呼び続けてきた呼称を簡単に直せるほど千鶴は器用ではなくて。これまでも、散々からかう様に注意されている。
(心の中でだったら何回だって呼べるのに・・・。)
先生と生徒という関係から、恋人という関係になってもうすぐ1年。これが初恋の千鶴にはハードルの高い事ばかりだ。

「ごめんなさい。と、歳三さん。」
「ああ、まあ気長に待つさ。それとも、これからはペナルティでも決めてみるか。」
どもりながらもなんとか呼ぶが、それだけで更に顔の赤みが増していく。そんな千鶴に土方は苦笑すると頭を一撫でして、千鶴に助手席に乗る様にと、ドアを開けて促してくる。千鶴を助手席に乗せて、土方も運転席に納まると少し意地悪な表情を浮かべて提案をしてくる。
「ペナルティですか?呼ばないと何かしなくちゃいけないんですか?」
千鶴が車を走らせる土方の横顔に目をやると、なんだか楽しげだけど意地悪そうな笑みを浮かべているのが分かる。
「そうだな。たとえば・・・・3回間違えると、お前からキス、とか?」
「えええっっ。キキキ、キスですか!」
飛び上がるように驚いた千鶴に土方は目を細める。
「まあ、今日は勘弁して置いてやるよ。」
「はあ、今日は、ですか?」
「ああ、そうだな。今度家にきたときにでもやってみるか?」
その土方の言葉に、ボンと千鶴の顔は沸騰したように真っ赤に染まる。火でも出てしまいそうで千鶴は頬に手を当てて少しでも覚まそうと進行方向を見つめた。
そんな千鶴を気に掛けつつ、土方は車を進めていった。


***

「やっぱり、ここはいい眺めですね!」
高台にある公園に来ると、見晴らしのよい丘へと登る。夕方になると、春が近いとはいえまだ冷える。そんな千鶴をコートでくるむようにする。
「ほら、寒いだろう。こっちに来い。」
「・・・ふふっ。暖かいです。」
桜の咲く時期になれば、人も多くなる公園だが、まだこの時期は人もいない。土方のコートにくるまれた千鶴は、頬を染めながらも抵抗はしなかった。
「今日は、どうしてここにきたんですか?急に迎えにいくって連絡がきたので驚いたんですよ?」
そんな問いに土方は呆れたように溜息を吐いた。自分のことに無関心で鈍いとは思っていたがここまでとは思わなかった。
「・・・お前なぁ。誕生日だろうが、今日はお前の!」
「・・・あ。」
「「あ」じゃねえよ。全く。俺の誕生日にはあれほど大騒ぎしやがったくせに、自分のは忘れるのか。」
「す、すみません。」
本当に忘れきっていたようだ。年頃の娘がこれでいいのだろうかと思わなくはない。だが、そんな千鶴だから愛しいのだとも思う。気を取り直す為に、こほん、と土方はわざとらしく咳払いをすると、用意していた箱を取り出した。
「ほら、た、誕生日プレゼントだ。」
「・・・・いいんですか?」
軽くパニックになっている千鶴は、そおっとその箱を受け取った。そして、もたつく手を何とか動かして取り出した箱の中身は、シルバーのリング。誕生石がさりげなく光るシンプルだけど可愛らしいそれを見て千鶴の視界が歪んでいく。
「なんか昔な、どっかで聞いたんだ。19の誕生日にシルバーのリングを貰うと幸せになれるっていうんだってな。今も流行ってんのかはしらねえが。」
「・・・っ。」
どんどん千鶴の瞳から涙がこぼれていく。幸せを願って用意してくれたという事がとても嬉しくて涙が止まらない。その涙を拭いながら、土方は続けた。
「いつか、違う指輪をやるまで、それでふさいどけ。俺がおまえを幸せにするって仮契約だ。」
涙で言葉にならない千鶴がこくこくと何度も頷く。その顎に指を掛けてこちらを向かせるとこぼれる涙を口付けて吸い取っていく。
「・・・私でいいんですか?」
「お前が、いいんだ。受け取ってくれるか?」
「・・・はいっ!」
大きく頷いた千鶴に、土方にほっとしたような微笑みが広がっていく。土方が千鶴の左手を取ると、薬指にリングをはめる。そして、どちらからともなく口付けを交わして。


千鶴の特別な一日は、幸せと共に暮れていく。

二人の指に同じ指輪がはまるのも、そう遠い未来ではないのかもしれない。



end.

昨年の春にお姉さまにプレゼントした作品です。

お姉さまが土方さんとちー様が好きなので、土方さん本を作成してプレゼントしました。

2011版バレンタインの一年後くらいをイメージして作成。ちょうど19歳。のはず。
なんか昔少女小説か漫画かなんかであったシルバーリングのジンクスを使ってみました。今でも言うのかな?どうだろう?

2012/04/07


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