親愛なるお姉さまに捧ぐ


※春生まれの方にプレゼントした作品の為、千鶴ちゃんが春生まれという設定になっています。ご了承ください。





春を詠う

江戸から遥か北にある蝦夷の地にも、少し春が近づきつつある。
雪が降ることも減り、少しずつ雪解けが進む。
そんな少し暖かい日の午後、千鶴は土方に誘われて、散歩に出た。誘ったのは土方なのに、寒いからとぶつぶつと呟きながら千鶴にこれでもかと羽織ものを掛けていく。これじゃあ動けませんからと、笑いながらもその気遣いがうれしくて、頬が自然と赤く染まる。
土方の心配性が増したのは、千鶴がもう一人の身体ではないから。つい先日、土方に告げてからは、なにをするにも過保護な土方の心配がつきまとっていた。
雪の残る中の外出なんて、と散々目くじらを立てていたのに、今日はいったいどうしたというのだろう。
「ほら、手ぇ離すんじゃねえぞ。」
「はい。」
あの鬼副長が・・・と過去を知るものなら絶句するほどの過保護な様子に、千鶴はくすくすと笑みを漏らしながら返事をする。
「でも今日はいったいどうしたんですか?」
「・・うん?まあ、な。もう少し歩いたところだからな、気ぃつけて歩け?」
どうも、目的地に着くまでは理由を話してくれる気はないらしい。すこし、照れたような様子があるのが謎ではあるが、こうと決めたらこれ以上聞いても答えてはくれないだろう。


***


「ほら、ここだ。」
「ここ・・・ですか?」
そこは家から少し離れたところにある里山の麓だった。だいぶ雪解けもすすみ、所々地面が見える。春が本当に近くまできているようだ。
そんな地面の一部を土方が指さした。
「ほら、あそこだ。見えるか?」
「はい?・・・・あ、かわいい。」
土方の指したすこし地面の見える部分にちいさ花が咲いていた。雪の残る里山にちいさな可愛らしい花。これを見せるために土方はここまで千鶴を連れてきたらしい。
「街で聞いたんだがな。西洋の方じゃあ、生まれた日ってのを祝うらしい。それで「ぷれぜんと」とかいう贈り物をするんだと。でだ、たしかお前は春先に生まれたって言ってただろう?」
「えっ、・・・・それじゃあ。」
「江戸ならもう、たくさんの花が咲いてるだろうがな、ここじゃあまだこんな花しか咲いていない。だけど、こんな冬の長い土地じゃあ春の訪れを知ることが一番いいことじゃねえかと思って、な。」
その言葉に驚いた千鶴が土方を見上げると、そっぽを向いた土方の横顔が、うっすらと赤い。千鶴のために探した花を見せるためにこうして連れてきてくれたらしい。
「歳三さん・・・・。」
「・・・なんだよ。・・・ってなんで泣いてんだよ。」
千鶴の呼び声に照れたように振り向いた土方が千鶴を見下ろすと、千鶴の頬をはらはらと涙が流れる。
「だって、うれしいんです。」
「泣くなって。こうやってもうすぐ春が来る。桜が咲いたら、酒でも持ってあの桜を見に行こうな。」
「はい。」
土方は、千鶴の涙を拭うと、そっと抱きしめた。
「ああ、でも、遠出は腹の子に障るか?」
「大丈夫ですよ。少しは動いた方がいいんですよ。歳三さんは過保護すぎです。」
「でもなあ、心配なんだよ。・・・よし、そろそろ戻るぞ。身体が冷えるからな。」
せっかく出てきたのにもう戻るという土方に千鶴はくすくすと笑いながら、抱きしめられた胸に頬をすり寄せるようにする。
「こうして歳三さんの腕の中なら暖かいですから。もう少し此処にいたいです。駄目ですか?」
そういって上目遣いでねだると土方は、ふうと溜息を吐いて頷いた。
「じゃあ、もう少しだけな。」
「はい。」
千鶴がうれしそうに微笑むと、土方が抱きしめた腕の力を強くした。その腕の中で、千鶴は夫の優しさを実感しながら、ちいさな春の訪れを見つめ続けた。



end.

昨年の春にお姉さまにプレゼントした作品です。

お姉さまが土方さんとちー様が好きなので、土方さん本を作成してプレゼントしました。

END後の土方さんの甘さを出したくて頑張ったけど……出せてるか?と、とても心配な作品。

2012/04/07


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