春の月に願うこと

千鶴に何が残せるだろうか。

死んだことになって。戻ろうとした俺は「生きてくれ」と部下に諭され生き残っちまった。

函館まで追ってきた千鶴を抱きしめた時、がらにもなく来世でまた二人出会って生きられたらなんて思ったもんだが、思いもかけず命を長らえることになった。戦いの中では思いもよらなかった静かな時間が流れている。北の大地は厳しいが、清らかな風土が羅刹の毒を流してくれるのだろう。風間と戦った時にも感じたが、傷の治りは遅くなり、昼に起きているのが徐々に楽になっていく。発作が起きることも無くなった。それでも羅刹として流した血は確実に俺の寿命を減らしている。残り少ないだろうこの命を、千鶴と生きるために使うと決めた。

死に場所を探して千鶴の手を払い生きてきたが、こんな生き方も悪くない。
決めた以上、足掻けるだけ足掻いてやろうと思う。千鶴のために。先に散って逝った仲間の為にも。やっとそう思えるようになった。

決めてからまず考えたのは、千鶴に何を残せるかということだった。
次こそは追ってこれないように。あいつをこの世に縛り付ける何かを残さなきゃならねえと思う。大鳥さんの手助けもあったのだろうが、あんな状況の中、女一人で海を渡ってくるような女だ。こうと決めたら、聞きゃあしねえ。俺のことなど忘れて生きていってほしいと思うが、そんなこと言おうものなら迷わず追ってくるような女だ。あいつは。

それならば。
あいつを縛り付けることのできる何かを残していくしかねえだろう。

子供がほしい、と思う。
子供が居れば俺がいなくても生きて行ってくれるんじゃねえかと考える。あいつは怒るんだろうな。

だが、それだけじゃねえんだ。
消えていく俺など忘れて幸せに生きてほしいと願うのとまったく逆の願いが俺の中にある。俺の生きた証をあいつに残したい(俺を忘れないでほしい)という願い。

俺とあいつの子供をこの腕に抱いてみてえんだ。

俺の身勝手な思いで、あいつにも子供にも苦労をかけちまうのかもしれない。

それでも、この想いの証であいつが、千鶴が俺亡き後の世を生きて行ってくれるのならば。
俺の生きた証を守っていってくれるのならば。

願ってもいいのだろうか。


「あたりまえじゃないですか。願ってください。叶えましょう。」
そんな千鶴の声が聞こえたような気がした。



end.

あう、なんかうまくまとまらない。
左之さんを書いていたんだけど、黎明録を見てもうちょっと練らないと思ったので随分前に走り書いてほっておいたのを発掘してまとめてみたけど
まとまらなかった感じ。

土方さんと左之さんは自覚してからも悩んで悩んで悩みそう、他人には見せないけどね
悩んだ挙句、土方さんは突っぱねて、左之さんは開き直って、という感じ
年少組は他のことで悩みまくってるので千鶴のことだけは即断即決って感じがしなくもない

土方さんは総ちゃんと正反対で、本当は死んだら忘れてほしいと思ってるんじゃないかなと思います
総ちゃんはいつまでも覚えていてほしいと願っていて
一さんはいつまでも一緒にいてやると願っていて
平助君はどうなってもそばで見守っていくと思っている
私の脳内設定はそういうことになっています

2010/11/11


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